微生物が合成し蓄積するポリヒドロキシアルカン酸(PHA)は生分解性という特徴を有する熱可塑性高分子であることから、環境に負荷を与えない無公害プラスチックとしての応用が期待されている。本研究では遺伝子工学的手法により、油脂や廃棄バイオマス(廃糖蜜や酒造廃液など)といった安価な炭素源から良好に増殖し、優れた物性のPHAを効率よく生合成・蓄積する微生物の育種を目指す。 土壌より単離したAeromonas caviae FA440株は中長鎖脂肪酸や油脂を炭素源として3-ヒドロキシブタン酸(3HB)と3-ヒドロキシヘキサン酸(3HHx)からなる共重合ポリエステル、P(3HB-co-3HHx)を合成・蓄積する。平成10年度は、これまでにクローニングしたA.caviae由来ポリエステル合成酵素(PHAシンターゼ)遺伝子を導入した組換え株のポリエステル合成能について検討した。A.caviae PHAシンターゼ遺伝子(phaC_<Ac>)を含む種々のDNA断片をポリエステル合成酵素欠損株であるRalstonia eutropha PHB-4株およびPseudomonas putida GPp104株に導入した。作製した組換え株は脂肪酸を炭素源としてP(3HB-co-3HHx)を蓄積し、A.caviae 由来PHAシンターゼは炭素数4〜6の3-ヒドロキシアシルCoAを基質とすることが示された。R.eutrophaを宿主とした場合では乾燥菌体重量あたり最高96wt%の共重合ポリエステルを蓄積し、P.putidaを宿主とした場合では、高3HHx分率(40〜70mol%)の共重合体が合成された。このように、遺伝子組換え株を用いることによって、A.c aviae野性株によるポリエステル合成では得られない収率や組成を達成することができた。 また、組換えR.eutrophaから細胞内タンパクを抽出して(R)-3HB-CoAを基質としたPHAシンターゼ活性測定および抗PHAシンターゼ抗体を用いたWestern blot解析を行い、PHAシンターゼ活性および発現量と細胞内ポリエステルの蓄積について検討した。その結果、PHAシンターゼ活性とポリエステル蓄積量・蓄積速度に相関は見られなかった。すなわち、PHAシンターゼによる重合反応はポリエステル生合成において律速ではないことを明らかにした。さらに、蓄積したポリエステルの分子量はPHAシンターゼの活性レベルとは関係なくほぼ一定であることを見いだし、細胞内においては重合触媒(PHAシンターゼ)の連鎖移動反応により分子量が制限されている可能性が示唆された。
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