本研究ではタンパク質の熱変性やフォールディングのモデル系として注目されているポリ(N-イソプロピルアクリルアミド)(PIPA)のコイル-グロビュール転移のメカニズムを明らかにするために、主に赤外分光法を用いて解析を行った。 PIPAのIRスペクトルの温度依存性を測定すると、LCSTである34℃付近で急激に水和状態に変化が起こった。転移に伴いC-H伸縮振動とアミドIIバンドは低波数シフトし、アミドIバンドは高波数シフトした。また、アミドIバンドは、LCST以下では水と水素結合したC=Oに帰属される成分(1625cm^<-1>)のみからなるが、LCST以上では非水和のC=Oに帰属される成分(1650cm^<-1>が生じた。39℃以上では脱水和されているC=Oの分率はほぼ一定の約13%であった。 ポリ(n-プロピルアクリルアミド)(PnPA)、ポリ(ジエチルアクリルアミド)(PDEAA)、ポリ(アクリロイルモルホリン)(PACMO)のアミドIバンドをカーブフィティング法で解析したところ、N-一置換体であるPnPAではPIPAと同様にLCST以下では水和型成分のみであったのが、LCST以上では高波数側に非水和の成分が生成した。一方、N-二置換体であるPDEAとPACMOではLCST以下でも非水和型を含む2成分であり、LCST以上では低波数側に第3成分が生成した。 また、IPAとイオン性コモノマーであるビニルイミダゾール(VIM)やアクリル酸(AA)との共重合体では、コモノマーのイオン化度に依存してLCSTが変化した。さらに、VIMとIPAの共重合組成とpHを変えて転移エンタルピー(ΔH)とLCSTの関係を解析したところ、塩濃度の等しい場合には同一曲線上にのり、塩濃度の増加に従って低温、低ΔH側にシフトした。塩とコモノマー組成とではLCSTを変化させる機構が異なることが示唆された。
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