本研究では、二種類の高分子AとBがそれらの片末端で共有結合により一本の分子鎖中に結び付けられているA-BジブロックコポリマーとA-Bの一成分と相溶性を持つ高分子Cの混合系におけるミクロ相分離とマクロ相分離による相分離構造の形成過程を明らかにすることを目的としている。特に本年度では、初期条件としてミクロ相分離を起こさせてから、その後にマクロ相分離を起こさせた場合に注目し、その自己秩序化過程に関して検討を行った。 用いた試料はスチレンイソプレン共重合体(S-I)とポリブタジエン(PB)である。S-Iは単体でポリスチレン部分がシリンダー状ミクロ相分離構造を形成し、かつそのシリンダー状ドメインが六方格子を組む。PBはS-Iのポリイソプレンに対して相溶性をもっている。そのため、S-IとPVMEを共通良溶媒であるトルエンに溶解し室温で溶媒を蒸発させることにより、ポリイソプレンとPBが均一に相溶してポリスチレンのシリンダー状ドメインがポリイソプレンとPBのマトリックスに均一に分散した透明なフィルムを得ることに成功した。すなわち、この状態においてはミクロ相分離のみが起こっている状態である。このフィルムを昇温するとフィルムは白濁し、ポリイソプレンとPBの相溶性が悪くなることによりマクロ相分離が引き起こされることが分かり、S-I/PB系においてミクロ相分離・マクロ相分離の順で相分離を起こさせることに成功し、マクロ相分離構造のミクロンオーダーの周期構造中にに数十ナノメーターオーダーの周期的構造のミクロ相分離構造が存在するいわゆる「超格子構造」を作成することができた。この系を一相領域(T=20.0℃)から二相領域(T=60.0or50.0℃)に温度ジャンプさせることによる、マクロ相分離構造の時間発展を時分割光散乱法により追跡した結果、60℃への温度ジャンプの実験においては、相分離構造の機構を特徴付けるピーク位置の波数qmの時間に対する指数が-1を示し、ホモポリマー混合系に見られる様な流体力学的な相互作用による成長が見られた。それに対し、50.0℃への温度ジャンプの実験においては、qmの時間に対する指数は-0.25になった。この違いは、50.0℃はポリスチレンのガラス転移温度以下であり、堅いシリンダードメインが流体力学的な相互作用による成長を抑制するのに対し、ポリスチレンのガラス転移温度以上の60℃では、シリンダードメインが柔らかくなり、その抑制がなくなるためであることがわかった。また、このマクロ相分離過程におけるミクロ相分離構造の時間変化を60℃において時分割SAXS法により測定をおこない、散乱光強度よりドメイン間距離等のパラメーターの時間変化を求めた。その結果、六方格子のドメイン間距離が減少することが観測された、これは、マクロ相分離により、均一な系がS-Iリッチ相とPBリッチ相に相分離することにより、S-Iリッチ相においてS-I単体での安定な構造へと転移することを反映していることが分かった。
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