平成10年度は、(1)まずランキンパネル法を用いて、静水中を船が航走する定常問題に関する非線形計算を行い、線形理論では考慮できなかった水面上の船体形状の影響を計算結果に反映できるようにすること、続いて(2)この解から波浪中の非定常問題を扱う際に必要となる定常流場の影響項を計算し、非定常造波問題に関する境界値問題を数値的に解くことを目的にして研究を遂行した。各目的に対して以下の成果が得られている。 (1)定常造波問題で一般的に用いられているランキンパネル法のうち、desingularized methodと呼ばれる計算手法を適用して国内では初めて完全非線形な定常造波問題を数値的に解くことに成功した。数学船型に適用し、得られた数値解を船体側壁に沿った定常波や造波抵抗などの実験値と比較することにより、計算の妥当性と精度の検証を行った。非線形境界条件を用いることにより、線形解に比べて大幅な推定精度の向上が確認された。 (2)非線形定常造波問題を解くことにより算出された非線形定常流場の諸値を入力として非定常造波問題を数値的に解く手法を開発した。船体まわりのdiffraction waveについて数値計算を行い、実験値と比較することにより定性的、定量的に推定値の向上が達成できることが分かった。同時にまた、bluntな船首まわりの造波現象にはこうした一連のアプローチによっても解明できない複雑な物理現象が起こっていることが推察されるに至った。
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