本研究では、秋播性オオムギ品種のミノリムギを実験材料に用い、春化関連遺伝子の単離・同定を行った。まず、実験に用いたミノリムギの低温要求性を止め葉の展開を指標として調査すると共に、春化に伴う茎頂分裂組織の形態変化をパラフィン切片を作成して観察した。その結果、ミノリムギの春化には最低4週間の低温処理が必要であること、さらに、低温処理中の茎頂分裂組織には顕著な形態的変化が生じていないことが明らかとなった。また、春化処理中の茎頂分裂組織で発現しているタンパク質を二次元電気泳動法で解析した結果、春化の前後で発現タンパク質に変化が生じていることが明らかとなった。次に、この基礎データをもとに、春化時の茎頂分裂組織において特異的に発現上昇乃至は発現低下する遺伝子群の解析をcDNA-RDA法を用いておこなった。その結果、春化したミノリムギの茎頂分裂組織では、核タンパク質、細胞骨格系タンパク質、機能未知タンパク質をコードする遺伝子が特異的に発現上昇し、逆に基礎代謝に関与する遺伝子群の発現が特異的に低下していることが明らかとなった。この結果は、春化時の茎頂分裂組織において遺伝子発現に大きな変動が生じていることを示唆していた。よって、cDNA-RDA法で単離したクローンの中からヒストンH1遺伝子に着目してより詳細な解析を行った。結果は、春化したミノリムギ茎頂分裂組織には、少なくとも3種類のヒストンH1遺伝子が発現し、3種類のヒストンH1遺伝子は春化に連動して特異的に発現上昇していることを示していた。この結果から、春化時の茎頂分裂組織ではクロマチン構造に変化が生じていることが示唆されるが、その変化が春化時の茎頂分裂組織における遺伝子発現変動に関与している可能性もあり、春化機構を考える上で非常に興味深い結果が得られた。
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