パンコムギにおけるトウモロコシAc/Dsエレメントを用いたトランスポゾンタギングシステムを開発するためにその基礎的研究として以下の2つの実験を行った。まず、コムギ細胞中で効率的にトランスポゾンを活性化するためにAc transposase(TPase)遺伝子の発現量とDsエレメントの切り出しとの関係について研究を行った。イネアクチン遺伝子プロモーターとGUS遺伝子の間にDsが挿入されているプラスミドを、すでに育成したTPase 遺伝子を発現している形質転換カルスにパーティクルガン法によって導入しGUSの一過性発現を調べることでDsの切り出し頻度を推定した。遺伝子導入を行ったカルスにおけるTPase遺伝子の発現量を比較し、Dsの切り出し頻度との相関を解析したところ、TPase遺伝子の発現量が高すぎる系統ではDsの切り出しが抑制されるというnegative dosage effectを支持する結果が得られた(Takumi et al.1999)。次に、すでに育成されているCaMV35Sプロモーターとhphの間に非自律性転移因子Dsが挿入されているプラスミドを組み込んだDs系統と、35Sプロモーターに転移能力を失ったAcTPase遺伝子が連結されているプラスミドを組み込んだAc系統、この両系統のF_1からF_2種子を収穫した。F_1個体ではサザン法によるDsの組み込みとノーザン法によるTPase遺伝子の発現を確認した。次にハイグロマイシン耐性を示すF_2植物の選抜を試みたが、植物体中でDsエレメントの存在とTPaseの発現が確認された6系統(F_1)由来の240粒のF_2種子からはハイグロマイシン耐性個体を選抜することが出来なかった。メチル化等の要因によりDsエレメントは不活化されていることが示唆されたのでF_2種子の未熟胚培養を行いDsエレメントの転移を促した。その結果7交配組み合わせ由来1328のF_2胚から3個体のハイグロマイシン耐性再分化個体を得た。これらの個体においてDsエレメントの転移が起こったのかどうかさらに自殖後代を用いて確認していく必要がある。
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