イネmutatorは、共存する細粒遺伝子(slg)の復帰突然変異にともなって活性化し、他の遺伝子座に新たな変異を誘発する能力を持つ。このmutatorの持つ変異誘発活性を効果的に利用するには、その発現契機であるslgの復帰突然変異を安定的に生じさせる必要があるが、多数のslgを持つ細粒系統の中には、その頻度が著しく少ない系統が認められる。本研究では、mutatorの変異誘発活性の制御を目的として、このような系統についてslgの復帰突然変異頻度(RF)を増加させる方法を検討した。 まず、組織培養によってslgのRFを増加させることができるか否かについて検討するため、互いに育成経過を異にする40細粒系統からslgのRFが比較的低い5細粒系統(IM21、IM54、IM136、IM157およびIM294)を選び、各系統の完熟種子から胚盤由来のカルスを作成して、その再分化植物と組織培養を行っていない細粒種子由来の植物との間でslgの計を比較した。その結果、5系統の全てにおいてslgのRFの上昇が認められ、このうちIM157では、その差が5%水準で有意となった。したがって、組織培養はslgの復帰突然変異を再分化当代植物において増加させると考えられる。今後は、再分化植物の個体別次代系統における組織培養の効果を検討してゆく予定である。 ついで、既述の40細粒系統について出穂期とslgのRFとの関係を調査したところ、晩生の細粒系統のslgのRFが低くなる傾向が認められた。そこでさらに、晩生の3細粒系統(IM89、IM172、IM217)について、高温下(バイオトロン、昼・夜30℃)で出穂した穂と自然環境(圃場条件)下で出穂した穂との間でslgのRFを比較したところ、3細粒系統のうちの1細粒系統において高温下で有意に増加した。このことから、晩生の細粒系統の一部については、出穂期の圃場における温度環境がslgの復帰突然変異を抑制していることが明らかとなった。
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