研究概要 |
ニホンナシを母本としてガンマ線を照射したリンゴ花粉を用いて属間交雑を行った結果,生存能力のある5個体の交雑実生を得ている.これらの交雑実生では母本由来のRAPDマーカーの遺伝しか確認されなかったことから,父本であるリンゴのゲノムが伝達していないアポミクシス由来の偽雑種である可能性が示唆された.そこで,交雑実生の雑種性を検討するための更なる情報を得るために,フローサイトメーターを用いてニホンナシとリンゴのゲノム当たりのDNA量と交雑実生のそれとを比較した.ニホンナシとリンゴの間で相対的DNA量を反映する蛍光量について比較したところ,リンゴはニホンナシの約1.35倍の蛍光量を持つことが明らかになった.従ってリンゴとニホンナシは蛍光量によって明確に分類することが可能であった.一方,ニホンナシとリンゴそれぞれに由来するゲノムを一つずつ持っているはずの属間交雑実生は交雑親の中間の蛍光量を示すと期待された.しかしながら,ガンマ線照射花粉を用いて得られた5個体の属間交雑実生はいずれもニホンナシとほぼ同じ蛍光量を示した.本手法により測定した蛍光量には試料間および反復間において高い再現性が得られているので,供試した5個体はいずれもニホンナシとほぼ同じDNA量であると推定された.この結果はRAPD分析による雑種性の検討結果を裏付けるものである.従ってこれら5個体は偽雑種であると考えられた.このような偽雑種はガンマ線照射花粉を用いた属間交雑において特異的に得られているのでニホンナシではまだ報告のないアポミクシス実生の可能性が高いと考えられた. 次年度はGISH法を用いてゲノム構成を明確にすると同時に偽雑種の起源についても検討する予定である.
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