果実の軟化には細胞壁分解酵素の関与が示唆されており、現在、細胞壁の構造変化に関与すると考えられているいくつかの細胞壁分解酵素について研究が進められている。多くの種類の果実において、軟化に伴って細胞壁からアラビノースやガラクトースが遊離することが報告されており、これらの中性糖の遊離に関与していると考えられるα-アラビノフラノシダーゼ及びβ-ガラクトシダーゼについて着目されている。近年、いくつかの植物よりβ-ガラクトシダーゼの遺伝子が単離され、その塩基配列が明らかにされている。本研究では、これらの情報を元にRT-PCR法によって、ニホンナシ果実からのβ-ガラクトシダーゼ遺伝子の単離を試みた。 材料は、ニホンナシ(豊水)を用い、8月6日から1週間おきに9月5日まで採取した。9月に採取した果実は適熟果である。果実組織より総RNAを抽出し、オリゴdTプライマーを用いてcDNAを合成し、それを鋳型として、PCR法によってβ-ガラクトシダーゼ遺伝子を増幅した。増幅された断片は、TAクローニングし、塩基配列を決定した。 約1.8kbの増幅断片が得られ、550塩基の部分シークエンスの結果、リンゴのβ-ガラクトシダーゼ遺伝子と98%の相同性がみられた。得られた他のクローンについても解析を行ったところ、少なくとも、プライマーから550塩基までの間ではすべて同一のものであった。成熟ステージごとのRT-PCRでは、増幅産物は、8月6日のサンプルでは少なく、その後わずかに増加し、8月27日及び9月5日のサンプルでは明らかなレベルの増大がみられた。このことから、この遺伝子は成熟に伴って発現量が増えていることが予想された。今後、全長のcDNAのクローニングを行い、塩基配列を明らかにする予定である。
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