果実の軟化には細胞壁分解酵素の関与が示唆されており、現在、いくつかの細胞壁分解酵素について研究が進められている。多くの種類の果実において、軟化に伴って細胞壁からアラビノースやガラクトースが遊離することが報告されており、これらの中性糖の遊離に関与すると考えられるβ-ガラクトシダーゼが注目されている。近年、数種の植物からβ-ガラクトシダーゼ遺伝子が単離され、その塩基配列が明らかにされている。本研究では、これらの情報を元に、RT-PCR法によって、ニホンナシ果実からのβ-ガラクトシダーゼ遺伝子の単離を試みるとともに、その発現について検討した。 材料には、ニホンナシ(豊水)を用い、果実の成熟ステージにしたがって経時的に採取した。果実組織よりトータルRNAを抽出し、オリゴdTプライマーを用いてcDNAを合成し、それを鋳型にPCRによってβ-ガラクトシダーゼ遺伝子を増幅した。また、RACE法によって5'の未知領域の配列を明らかにし、PCRによって全長のcDNAクローンを得た。デリーションクローンを作成し、全塩基配列を決定した。また、全長クローンをEco RI及びPst Iで切断した約700bpの断片をサブクローニングし、ジゴキシゲニンでラベルしたRNAプローブを作成し、ノーザン解析を行った。 得られたクローンのORFは731のアミノ酸をコードしており、リンゴのβ-ガラクトシダーゼと98%の相同性がみられた。また、他の植物のβ-ガラクトシダーゼとも高い相同性を示した。得られたクローンは果実に特異的な発現を示し、かつ、成熟に伴ってその発現量が増大した。成熟に伴う発現量の増大は、ニホンナシ果実の中でも、軟化に重要と考えられているβ-ガラクトシダーゼIIIの活性の増大と一致した。以上から、得られたクローンはニホンナシの軟化に重要なβ-ガラクトシダーゼの遺伝子をコードしていることが示された。
|