近年、植物病原糸状菌の分生胞子から付着器(感染器官)への形態分化システムについて遺伝子レベルでの解析が行われている。解析法の一つとして付着器分化時に特異的な発現を示す遺伝子のディファレンシャルスクリーニングによる分離、解析が挙げられる。これまで数種の植物病原菌においてディファレンシャルハイブリダイゼーション、サブトラクション法を組み合わせた形で目的遺伝子の分離が試みられているが、分離効率は決して高くはなく、また得られた遺伝子はほとんど発現量の高い遺伝子に限られている。このようなディファレンシャルスクリーニングにおける問題の解決策としてcDNAクローンの存在比を一定にした均一化cDNAライブラリーを用いることが挙げられる。 本研究においては植物病原菌ウリ類炭そ病菌(Colletotrichum lagenarium)において、より効率的なディファレンシャルスクリーニングを行うため、均一化cDNAライブラリーの構築を試みた。本菌の付着器分化過程における分生胞子のnlRNAより合成したcDNAに対し、2回の均一化処理を行い、均一化cDNAライブラリーとした。コロニーハイブリダイゼーションにより既知遺伝子の割合を調査した結果、通常のライブラリーにおいて遺伝子間の割合の差が900倍であったのに対し、均一化ライブラリーにおいてはその差は14倍にまで減少していた。したがって構築したライブラリーは高度に均一化されていると推定された。この均一化ライブラリーのクローンに対しディファレンシャルハイブリダイゼーション法を用いて菌糸生育過程では発現せず、付着器分化過程において発現する遺伝子の単離を試みた。計1900個のcDNAクローンに対しディファレンシャルハイブリダイゼーションを行い、陽性と思われるクローンについてさらにRNAブロット分析を行った。その結果、付着器分化過程特異的な発現を示す遺伝子が12種単離された。得られたクローンに対し部分的に塩基配列を決定した結果、重複が一つ見られたので、計11種の独立した遺伝子が分離されていることが判明した。これらの遺伝子の発現は高発現型に限られず、低発現を示す遺伝子も数種存在していた。
|