カイコ消化管において、ほ乳類で発見されたTIA-1との相同性を示す蛋白質(TIA-1ホモローグ)のメッセンジャーRNAが存在することを見い出してきた。TIA-1および類似のpolyA^+RNA結合蛋白質には何らかの働きにより細胞死を誘導する機能があることが分かっている。このTIA-1ホモローグがカイコの発育・変態に伴う細胞死に関連することが考えられ、この点を明かにするため、 (1)カイコ発育変態過程におけるTIA-1ホモローグの発現解析と、 (2)組み換えTIA-1ホモローグ蛋白質の性質の解析を行った。 (1) RT-PCRによるmRNA量の変動解析の結果、5齢幼虫から蛹期の中腸および絹糸腺ではガットパージ後に急激にTIA-1ホモローグmRNA量が増大した。中腸ではこのmRNA量はガットパージ期に極大となりその後緩やかに減少するが、蛹期にも低いレベルで維持された。一方絹糸腺では蛹化直前に極大となったのち、このmRNA量は蛹初期に殆ど検出されなくなった。また組み換えTIA-1ホモローグをウサギに免疫して得られた抗血清によるウエスタンブロッティングにおいても、抗体と反応する蛋白質が変態期依存的に増大した。幼虫ー蛹変態期に中腸では細胞死および組織更新による形態変化が見られ、また絹糸腺では蛹初期に組織崩壊および排除が見られる。こうした結果はTIA-1ホモローグが変態過程でおこる細胞死現象に役割を果たすことを示唆するものである。さらにTIA-1ホモローグ産生機構にはmRNA発現レベルでの調節が働くことが推察された。 (2) 一方、大腸菌内で発現した組み換えTIA-1ホモローグを精製し、そのpolyA^+RNAへの結合性を調べた。polyA^+RNA-Sepharoseに対する組み換えTIA-1ホモローグは可逆的に結合し、0.2-0.3M NaCl添加によりその結合は解離することが示された。
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