カイコ消化管において、ほ乳類で発見されたアポトーシス誘導性polyA^+RNA結合蛋白質であるTIA-1との相同蛋白質(TIA-1ホモローグ)のメッセンジヤーRNAが存在することを見い出してきた。カイコの中腸・絹糸線組織において、mRNAおよび蛋白質が幼虫一蛹変態期に強く発現することから、このTlA-1ホモローグは変態に伴う細胞死過程に役割を持つことが示唆された。そこでこの蛋白質の細胞死との関連を明らかにするため、カイコ培養細胞にTIA-lホモローグを導入し、誘導される細胞内変化を追跡した。 (1)大腸菌発現系を用いて構築したTIA-1ホモローグ蛋白質は確かにRNA結合活性を有しており、これをトランスフェクション法によりBm-N4細胞に取り込ませた。ターミナルデオキシヌクレオチディルトランスフェラーゼを用いてDNAの断片化を起こした細胞を特異染色したところ、TIA-1ホモローグ蛋白質を取り込んだ実験区には、対照として牛血清アルブミンを取り込ませた対照区には見られない死細胞の増加が処理後4時間までに観察された。 (2)またTIA-1ホモローグの全長cDNAとその上流にメタロチオネインプロモーターを連結した配列を挿入した組換えプラスミドを作製し、これをBm-N4細胞に取り込ませた。硫酸銅添加によりTIA-1ホモ口一グの誘導を行ったところ、プロモーターを含まないプラスミドを用いて処理した細胞には見られない死細胞の増加が処理後9時間までに確認された。 以上の結果から、カイコTIA-1ホモローグは培養細胞の細胞死過程を誘導する機能を持つことが明らかとなった。またこのpolyA^+RNA蛋白質が変態期における組織の細胞死を誘導する可能性も考えられる。
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