寒冷ストレスに対する生理反応には、温度変化に依存して発現が誘導されるいくつかの遺伝子群が報告されているものの、寒冷ストレスに対する抵抗性の獲得・維持機構に関わる分子メカニズムには未解明の点も多い。本研究は、このような、寒冷環境に対する恒常性の獲得・維持・伝達機構を明らかにすることを目標としている。我々は既に低温ストレスを施したハツカダイコン根端における遺伝子発現の解析から、低温で特異的に発現が誘導されるタンパク質(L1)を同定しているが、今年度の研究においてはL1の発現が根端において細胞分裂を介して娘細胞に伝達されることが示唆される結果が得られた。 実験は、20℃で水耕栽培したハツカダイコン(品種:雪小町)幼植物を低温処理(10℃、3時間)し根端におけるL1の発現を誘導した。その後、植物を常温(20℃)でさらに27時間培養し、根端におけるL1の発現を根端mRNAのin vitro translationにより解析した。また、根端細胞の分裂による細胞集団の更新状況は、[^3H]チミジンのパルステェイス実験による根端DNAへの[^3H]の取り込みによりにより追跡した。3時間の低温処理により根端における発現が誘導されたL1遺伝子は、その後、常温で27時間培養を続けた根端においてもその発現が持続することが判明した。さらに、低温処理後の常温での培養により、根端細胞群が新規の細胞集団に更新することが明らかとなり、低温で誘導される根端遺伝子の中には、その発現が、細胞分裂を介して娘細胞に伝達されるものも存在することが示唆された。
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