これまでに、新規神経成長因子の探索を目的に、ラットPC12細胞に対する様々な癌細胞培養上清の効果を調べてきた。その結果、2種類のグリア由来癌細胞培養上清において突起伸長活性が検出された。1種類については既に精製を完了しており、機能の未知な遺伝子をコードしている事が明らかになっていたので、この遺伝子の動物細胞での発現を試みた。その結果、高発現に適した上皮由来の細胞株で発現させた場合、培養上清に分泌される遺伝子産物は精製にもちいたグリア由来細胞でできたものにくらべて明らかにサイズが大きく、突起伸長活性をもたなかった。また、昆虫の細胞で発現させた場合も同様であった。そこで、活性をもつためにはグリア細胞に特異的なタンパク質のプロセッシングが必要なのではないかと予想し、グリア細胞での発現を試みている。 もう1種類に関しては初代培養神経細胞に対しても顕著な突起伸長活性を示し、既知の因子とは異なる性質を示していたものの未精製であったため、精製に有効なカラムの検討を試みた。その結果、陽イオン交換樹脂、ヘパリン樹脂に吸着性を示すことが明らかになった。また、ゲルろ過カラムを用いた結果、分子量約10-20kDaの付近に活性のピークが認められた。さらに等電点カラムを用いたところ、他の大部分のタンパクに比べ高いpHで溶出されることが明らかになり、有効な精製の1ステップになることが期待された。今後これらのカラムを用いて大量スケールでの精製を行えば、最終段階の電気泳動において、アミノ酸配列決定に十分な精製度のバンドを得ることができるものと期待している。
|