本研究は酵母Saccharomyces kluyveriの不飽和脂肪酸生合成経路及びその制御機構の解明を目的とし、本年度の研究計画としては、多不飽和脂肪酸要求性を相補する遺伝子のクローニングとΔ9脂肪酸不飽和化酵素遺伝子のクローニングを試みた。 先に取得した多不飽和脂肪酸要求性株を用いて酵母S.kluyveriのゲノムライブラリーの導入を行ったが、この多不飽和脂肪酸要求性株自体が不安定で要求性を相補するポジティブなクローンを得ることが出来なかった。そこで再度、変異剤EMSでの多不飽和脂肪酸要求性株の取得を行っているが、現在までに長期間安定な変異株は得られていない。また、多不飽和脂肪酸合成遺伝子クローニングの代替法として、既知の植物由来の多不飽和脂肪酸合成遺伝子をプローブとした酵母S.kluyveriのゲノムDNAへのサザンブロットやそれら酵素で保存されているアミノ酸配列を基にデザインしたDNAプライマーを用いたPCRも行っているが、有力な候補クローンは得られていない。 一方で、酵母S.cerevisiaeのΔ9脂肪酸不飽和化酵素遺伝子Sc-OLE1をプローブとした酵母S.kluyveriのゲノムDNAへのサザンブロットでは、制限酵素BamHI消化物に対して約4Kb、EcoRI消化物に対しては2.4Kbと0.4Kb程度の位置にポジティブなシグナルが得られた。そこで、ゲノムDNABamHI消化物の4Kb付近のDNA断片を含むサブライブラリーを作製し、その中がら有力なクローンを取得した。得られたDNA断片の全塩基配列を決定したところ、約1.6KbのORFが得られた。このORFより推定されるアミノ酸配列をSc-OLE1と比較した結果、全体で61.6%の相同性を有することがわかった。このことから今回クローニングしたDNA断片は、酵母S.kluyveriのΔ9脂肪酸不飽和化酵素遺伝子Sk-OLE1を含むことが示唆された。現在はSk-OLE1遺伝子の機能解析を行うべく、酵母S.cerevisiaeでの発現を試みている。
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