前年度の研究で重原子同型置換法により得た電子密度図に当てはめた分子モデルの精密化を行なった。まず、常温においてRAXISIICにより収集した分解能2.8Åの反射データに対しプログラムXPLORによる精密化を行った。さらに、クライオプロテクタントとしてグリセロールを使用したクライオ実験により結晶の回折最大分解能の増加を試みた。最終的にグリセロール濃度を30%まで増やした母液に浸した結晶を、液体窒素気流中で-170℃に瞬間冷却した。回折強度測定は、高エネルギー加速器研究機構物質構造科学研究所放射光施設で行った。イメージングプレートを検出器とし、波長1.00Åで測定した。回折強度データを処理したところ、分解能2.5ÅでR_<merge>が4.2%のデータを得ることができた。分解能2.8Åで精密化した分子モデルを初期モデルとして使用してさらに精密化を行った。剛体近似精密化を行った後、位置精密化と温度因子の精密化及びグラフィックス上でのモデル修正を繰り返した。分子モデルはタンパク質分子、PLP分子、酢酸分子と129個の水分子を含み、結晶学的R値は20.0%、R_<free>値は23.0%まで収束した。本酵素は406アミノ酸残基のサブユニット2つからなる二量体酵素であり、各サブユニットは、α/βフォールドの大ドメインと、βシートとαヘリックスからなる小ドメイン、およびN末端部分により構成されている。本酵素の特徴は、小ドメインから伸びた1本のαヘリックスを含むロープが、大ドメインの方向へ伸びており、もう一方のサブユニットから伸長したβヘアピンループと相互作用していることである。このロープ上にあるCys364と別のループ上にあるHis55が酵素反応に関与することが立体構造から示唆されるが、低温下での高分解能解析によりこれらの残基近傍の水分子の位置を同定することができた。
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