研究概要 |
生分解性プラスチック素材であるポリL-乳酸の原料となるL-乳酸は発酵によってのみ生産が可能であるが、ポリL-乳酸の実用化には、L-乳酸製造プロセスの大幅なコストダウンが必須である。コストダウンには農産廃棄物や未利用バイオマスを乳酸発酵の炭素源として利用することが不可欠であるが、ヘミセルロース由来の糖を効率よく資化できる乳酸菌は少なく、その代謝機構も不明な点が多い。我々が分離した乳酸球菌Lactococcus lactis IO-1は,キシロースの資化能力が既知の乳酸菌のなかで最も優れており,その乳酸収率は従来知られたキシロース代謝経路では説明不可能な(高い)値を示す.すなわち,このIO-1という菌は新規な代謝経路を有している可能性がある.そこで、本研究ではこのような高乳酸収率性の乳酸菌に存在すると思われるキシロースの新規な代謝経路の解明を試みた。まず、L.lactis IO-1の連続および回分培養試験を種々の条件下で実施し,キシロース濃度,希釈率,窒素源濃度,菌体の増殖時期などの環境要因の変化が物質収支に及ぼす影響について検討した.その結果、本菌は高いキシロース濃度ではその乳酸収率が、乳酸菌のキシロース代謝経路として知られているphospketolase経路によって得られる理論収率(1.0mol-lactate/mol-xylose)を大幅に越え、逆に低いキシロース濃度では乳酸収率が激減し、酢酸やエタノール、蟻酸の生成が増加することが明らかになった。このことは、本菌では高キシロース濃度ではC5化合物であるキシロースがC2化合物の生成を伴うことなく完全にC3にのみ変換する代謝経路が機能しており、低キシロース濃度ではこれとは全く異なる経路が機能していことを示唆している。従って、次年度の研究では、乳酸菌の糖代謝に関与する諸酵素の活性が培養環境によってどうように変化するかを追跡し、本菌における代謝変換がどのようなメカニズムで調節されているか明らかにしたい。
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