我々のグループは酵母Saccharomyces cerevisiaeのほとんどの株で発現が抑制されているポリガラクツロナーゼの生産突然変異体を単離している。本研究課題では、このポリガラクツロナーゼ遺伝子発現抑制機構解明のため生産突然変異株の解析した。昨年度は突然変異株のポリガラクツロナーゼ遺伝子の解析と四分子解析による遺伝学的解析から、ポリガラクツロナーゼ遺伝子の発現抑制因子についての情報を得た。本年度はこの因子についての解析を進め、次のような成果を得た。 (1)ポリガラクツロナーゼ遺伝子発現抑制に関与する遺伝子のクローニングにおいて、欠損変異相補クローニングでネガティブスクリーニングとなることを回避するため、まずポリガラクツロナーゼ遺伝子の発現制御領域とlacZ遺伝子の融合遺伝子(PSM1-p:lacZ)を構築した。この融合遺伝子を変異株および野生型株に形質転換し、変異株では青コロニーを、野生型株では白コロニーを生じることを確認した。これによりlacZ遺伝子を指標した発現抑制因子の遺伝子クローニングを行うポジティブスクリーニング系が確立できた。 (2)比較検討のためS.cerevisiae以外の酵母についてポリガラクツロナーゼ遺伝子を検索し、kluyveromyces属酵母2種より遺伝子をクローン化した。これらの遺伝子について塩基配列を決定し、S.cerevisiaeの遺伝子と比較すると、構造遺伝子の領域では約60%の相同性が認められたが、プロモーターを含む発現制御領域では相同性が少なく、Kluyveromycesのポリガラクツロナーゼ遺伝子の発現制御機構はS.cerevisiaeのそれとは異なることが示唆された。今後、両ポリガラクツロナーゼ遺伝子の発現制御領域の機能的な差異を検討する必要がある。
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