放線菌Rhodococcus sp.N-771は一酸化窒素(NO)生成活性を持ち、ニトリルヒドラターゼ(NHase)をニトロシル化することにより不活性化し、NHaseに光応答性を付与している。従来NO生産活性としては、アルギニンを基質としたNO合成酵素および亜硝酸イオンを基質とした亜硝酸還元酵素とが知られている。1998年にR.sp.N-771に極めて近縁と思われるR.sp.R312においてNO合成酵素によってNOが合成されると報告されているが、R.sp.N-771におけるNHaseの不活性化はアルギニンでは促進されず、亜硝酸イオンで促進されることから、本菌体のNO生成系は亜硝酸還元酵素によるものと考えられる。微生物における亜硝酸還元酵素としては、シトクロムcd1あるいは銅を中心金属として含むものが単離されており、いずれのタイプもそれぞれ種間でよく保存されている。昨年度の結果から、R.sp.N-771における亜硝酸還元酵素は銅型ではないと考えられる。そこで、今年度はシトクロム結合部位を含む鉄型亜硝酸還元酵素で極めてよく保存されている部位をもとにプライマーを設計し、PCRを行った。その結果、幾つかのメジャーなバンドが得られたが、いずれも亜硝酸還元酵素とは全く異なっていた。次に、酵素の活性測定系を考えた。R.sp.N-771破砕液を硫酸第一鉄存在下でNOトラップ試薬であるN-methy1-D-glucamine dithiocarbamateと混合すると、NOに由来するESRシグナルを示した。この系に亜硝酸ナトリウムを加えるとシグナルが約3倍に増大し、電子供与系としてジチオナイトとベンジルビオロゲンを加えると、さらに、3.5倍に増大した。従って、この電子供与系を用いれば、in vitroで酵素活性を測定できる。R.sp.N-771破砕液を遠心し、可溶性画分と膜画分について同様に活性測定したところ、NO生成活性は可溶性画分に検出された。以上の結果から、R.sp.N-771における亜硝酸還元酵素は、従来知られていない可溶性酵素であると考えられる。上記の活性測定系を用いて、現在R.sp.N-771粗抽出液から亜硝酸還元酵素の単離を試みている。
|