本年度は、フェノールオキシダーゼインヒビター(POl)に特異的なDopa残基の役割を明らかにする事を目的とした、高分解能NMR測定による3次元構造解析を行うにあたり、その対照となるべき未修飾ペプチドに相当する[Try^<32>]POlのジスルフィド結合架橋様式の決定を行ない、生化学的、有機化学的手法と計算機実験の組み合わせによりPOlの構造的特性に関して知見を得ることを試みた.[Tyr^<32>]POlは、確立した合成法に基づき調製し、これを用いて分子内ジスルフィド結合架橋様式を決定した。in vitroでのジスルフィド結合の再生を伴うリフォールディング実験において、[Tyr^<32>]POlは妥当な回収率でnative POlに相当する単一の生成物を与えたのに対し、32位にドーパ残基を有するペプチドを用いた実験では、天然物と一致しない複数のミスフォールドした生成物を与えた。架橋様式の決定は、段階的酵素消化及びジスルフィド結合の部分還元アルキル化を併用することにより行った。酵素消化によって切断が困難である隣接するCys残基を含む2組のジスルフィド結合は、新規ジスルフィド結合架橋法にて合成したフラグメントペプチド標品を、酵素消化物と比較することにより同定した。驚くべき事に、解析された分子内のジスルフィド結合架橋様式は、シスチンノット構造ファミリーに分類される魚食貝や蜘蛛の毒ペプチドと同一のトポロジーを有していた。さらに、決定されたジスルフィド結合架橋様式を束縛因子として考慮した分子動力学、及びエネルギー極小化計算によりPOlの分子構造を推定した。その結果、POlはインヒビター型シスチンノット構造ファミリーに属することが示唆された。このことは、POlが、イエバエ以外にも広い生物種にわたって存在する可能性を示唆するとともに、PO阻害以外の機能を有する可能性を示唆するものと考えられる。
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