脂肪酸活性化酵素(ACS)は脂肪酸をアシルCoAに活性化する酵素で、脂肪酸代謝の初発段階に位置している。ACS3とACS4はアラキドン酸やエイコタペンタエン酸を特異的に活性化する酵素で、これら脂肪酸の細胞内への取り込みとその代謝に重要な役割を担っていると思われる。これらの酵素の生理的役割を解析する目的で、それぞれの遺伝子を欠損するマウスの作成を試みた。ACS4遺伝子は性(X)染色体上に局在し、その遺伝子破壊がACS3より容易であると思われるため、まずACS4遺伝子欠損マウスの作成を試みた。 これまで使用していたES細胞では、高いキメラ率を有するマウスを得ることが出来なかったため、新たに入手したES細胞(TT2細胞)に、エレクトロポレーション法によってACS4遺伝子に対するターゲテイングベクターを導入した。PCR法及びサザンブロッティング法を用いて、相同組換え体を選別し、最終的に14クローンを得た。このうち3クローンを凝集法によるキメラマウス作成に用いた結果、85%以上のキメラ率を有する雄のマウスを、それぞれの系統から2匹以上得ることが出来た。これらのキメラマウスを野生型マウス(C57BL/6)と交配させ、得られたF1マウスへの変異アレルの伝達を、PCR法及びサザンブロッティング法を用いて解析した。その結果、F1雌マウスの30%以上がACS4変異アレルを有していた。このF1ヘテロ変異マウスと野生型マウスと交配させ、F2ヘミ変異雄マウスの取得を試みたが、これまでにACS4遺伝子を完全に欠損したマウスは得られていない。また、生殖細胞に変異アレルの伝達が確認されたキメラマウスとF1ヘテロ変異マウスの交配により、F2ホモ変異雌マウスの取得も試みたが、成功していない。 現在、ヘミ変異及びホモ変異マウスが得られない原因を解析するとともに、遺伝的背景の異なったマウスと交配することにより、ACS4遺伝子欠損マウスの作成を試みている。
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