本研究では、中鎖脂肪酸化合物の透過促進機構の解明を目的として研究を行なってきた。その結果、これまでの本研究の知見より、以下のことが明らかになった。 1-1. 中鎖脂肪酸の細胞内小器官の機能への影響 中鎖脂肪酸による透過促進およびそこからの回復過程を細胞層透過電気抵抗を透過促進の指標として用いたモデル系として定義し、実験に用いた。中鎖脂肪酸化合物による透過促進及びそこからの回復過程において、細胞質に存在する乳酸脱水素酵素(LDH)のアピカル側、バソラテラル側それぞれの放出を観察し、細胞の形質膜への影響を考察した。その結果、形質膜は中鎖脂肪酸存在下で傷害を受けるが、中鎖脂肪酸が消滅すると直ちにその放出を停止することが示唆された。また、調べたカプロン酸モノアシルグリセロール、カプリン酸モノアシルグリセロール、カプリン酸ナトリウム塩(C10FANa)、SDS及びタウロコール酸ナトリウム塩では、ほとんどの物質がアピカル側にのみLDHを放出したのに対して、C10FANaのみは、バソラテラル側からのLDHの放出が見られた。この結果よりC10FANaの特殊性が示唆された。 1-2. ミトコンドリアデヒドロゲナーゼ活性への影響 前述の実験系においてMTT法を用いて、細胞内小器官であるミトコンドリアのデヒドロゲナーゼ活性(MTT活性)への影響を評価した。その結果、本研究室の以前の研究結果より明らかになっていたように、透過促進と共にMTT活性は減少したが、今回新たに回復過程において、MTT活性も回復してくることが明らかになった。この回復はDNA合成阻害剤aphidico1inを用いて検討した細胞増殖阻害の影響を受けず、中鎖脂肪酸化合物は、ミトコンドリアの機能に影響を与えるが回復不可能ではないことが示唆された。また、この検討よりMTT法による細胞毒性検討において回復の可能性を考慮する必要があることが示唆された。
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