本研究では、中鎖脂肪酸化合物の透過促進機構の解明を目的として研究を行い、以下の実験結果が明らかになった。 1-1.透過促進検討時の中鎖脂肪酸自身の透過挙動 中鎖脂肪酸及びそのモノアシルグリセロール自身の透過促進の際の振舞を拡散チャンバーにセットしたCaco-2細胞培養系を用いて検証した。その結果、(1)カプリン酸ナトリウム塩(C10FANa)は腸管側の濃度差が血管側に出現する透過係数に反映された、(2)細胞内のC10FANaは実験開始後30分ほどで約3500mMに到達するが、腸管側濃度に依存しなかった、(3)小胞輸送阻害剤により阻害される、細胞内からC10FANaを放出する機構の存在が示唆された。カプリン酸モノアシルグルセロール(C10MG)を用いた実験では、C10MGにより透過を促進された親水性生理活性物質の見かけの透過係数と、C10MG自身の透過に相関が観察された。 1-2.細胞内pHの変動についての検討 フルオレセインデキストランを用いて、中鎖脂肪酸(C10FANa)の接触によりリソソームのpHがどのような影響を受けるかを検討した。文献より細胞内pHに影響を与えるとされるNH4Clへの反応は実験によりばらつきが見られたが、C10FANaを用いた実験では細胞内pHに変化は見られなかった。 1-3.中鎖脂肪酸と長鎖脂肪酸の混合による透過促進効果の検討 中鎖脂肪酸を食品に添加した際の透過促進効果に対する影響を検討するため、食品中に多く含まれる長鎖脂肪酸との混合が中鎖脂肪酸の透過促進に与える影響を検討した。その結果、中鎖脂肪酸どうしを混合した際と同様の傾向が観察され、同種の親水基をもつ脂質(C10FANaとオレイン酸など)を混合すると透過が促進され、異種の親水基を持つ脂質(C10MGとオレイン酸など)を混合すると透過が抑制される傾向が観察された。
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