食餌摂取に伴う肝臓および骨格筋での急激な蛋白質合成の冗進は、翻訳開始活性の上昇がその一因で、翻訳開始過程の中でも開始因子2(eIF2)が介するステップではなく、集合的に開始因子4(eIF4)と呼ばれている蛋白質familyが介するmRNAのリポソーム40S subunitへの結合のステップが重要な調節部位である。これまでの研究で、食餌摂取に応答した翻訳段階の活性化には、食餌中の蛋白質が重要な働きをしていることが示唆されている。そこで、eIF4が介するmRNAをリポソーム40Sサブユニットに結合させるステップの調節に対する食餌蛋白質の影響を調べた。eIF4の中でも最初にmRNAの5・末端のキャップ構造と結合するeIF4Eが重要な働きをしている。現在、eIF4Eの活性調節について二つの機構が知られている。その一つはeIF4Eのリン酸化であるが、蛋白質合成とeIF4Eのリン酸化状態について統一した見解は得られていない。もう一つはeIF4Eと結合してその働きを阻害するeIF4E結合蛋白質である4E-BPlのリン酸化である。4E-BPlはリン酸化されるとeIF4Eから離れ、eI-F4EはeIF4Gと結合しeIF4Aと共にeIF4F複合体を形成し、mRNAに結合する。ラットを18時間絶食とし3群に分け、1群はそのまま屠殺し、1群にはその後蛋白質を20%含む食餌(20P)を、残る1群には20Pと等カロリーの蛋白質を含まない食餌(OP)を1時間摂取させ、3群間での比較を行った。その結果、蛋白質を含んだ食餌(20P)を摂取させた場合、肝臓、骨格筋のどちらの組織でも絶食群と比べて4E-BPlのリン酸化が増加し、4E-BPlがeIF4Eがら離れ、不活性なeIF4E・4E-BPl複合体量が減少し、eIF4Gと結合しているeIF4Eが増加した。一方、OPを再摂取させた場合、4E-BPlのリン酸化状態、eIF4E-eIF4G及びeIF4E・4E-BPl複合体の量に変化は見られなかった。以上の結果から、食餌摂取に伴うeIF4が介する翻訳開始ステップの活性化には食餌中の蛋白質が必須であることが明らかとなった。
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