本研究はCVM(仮想評価法)とGIS(地理情報システム)を用いて分析し、湿原生態系の注物多様性の価値を評価することで、生物多様性破壊の損害額を評価し、今後の保全政策のあり方を示すことを目的としている。本年度は(1)北海道道東地域の土地利用に関するデータの収集、(2)釧路湿原周辺の生態系保全政策の経済評価、(3)GISとCVMの二つの手法を結合するための新たな手法の確立、の3点を中心に研究を実施した。 第一に、土地利用データに関しては、国土庁や環境庁が作成した既存のGISデータがあるものの、精度の点で不十分なものが多いことが判明した。信頼性を高めるためには、新たにGISデータを作成する必要があるが、釧路湿原のような広大な地域のGISデータを作成するのはかなり難しい。そこで、他の研究者の協力を得て、地域を限定したGISデータを入手した。 第二に、釧路湿原周辺の土地利用を規制して、湿原の生物多様性を保全するためのシナリオを作成し、このシナリオの経済価値を評価した。その結果、湿原周辺の森林まで含めて保護するために必要な費用は13億円であるのに対して、湿原の生物多様性保全によって得られる価値は256億円となり、社会的純便益は243億円となることが判明した。 第三に、CVMとGISの二つの手法を結合するためには、土地利用に関する空間データを統計的に解析するためのシステムを構築する必要がある。そこで、代表的なGISアプリケーションであるArc/InfoおよびArc Viesと統計アプリケーションS-Plusを統合したコンピュータ・システムの構築を行い、試験的な解析を実施した。 次年度は、本年度に作成したGISデータおよび社会経済データを統合し、さらに詳しい湿原保全シナリオを作成するとともに、保全政策の評価を実施する予定である。
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