ヒノキ漏脂病の病徴発現機構として、傷害樹脂道形成および樹脂生産を誘導するとされているエチレンの作用に着目した。被害木と健全木から樹皮ブロックを採取し、採取後の傷害エチレンの生成量を、経時的に測定した結果、被害木では健全木にくらべて、傷害エチレン生成量が多いことが明らかにされた。次に、エチレン発生剤であるエスレルをラノリンに混和し、ヒノキ属のヒノキとサシラ、アスナロ属のアスナロとヒノキアスナロの樹幹に塗布したところ、ヒノキ属モは傷害樹脂道および樹脂嚢の形成が顕著であった。これらのことから、ヒノキ漏脂病における傷害樹脂道および樹脂嚢の形成は、傷害エチレンによって誘導されているものと推測される。アスナロ属については、樹脂道の形成はみられず師部組織の壊死が生じたことから、エチレンの作用濃度がヒノキ属と異なるもめと考えられ、今後、低濃度での実験を行う必要がある。 このような、傷害エチレンを生成させる刺激としての環境要因を明らかにするために、滞水ストレスおよび乾燥ストレスをヒノキ鉢植え苗に与えた後、それらのヒノキ苗から樹脂ブロックを採取して傷害エチレン生成を調べた。その結果、滞水ストレスを与えた苗で大量のエチレン生成が認められた。このことは、漏脂病の発生が湿潤な平坦地に多いという観察結果と一致し、滞水ストレスが漏脂病に関与している可能性を示唆している。今後、低温および積雪、菌類の影響についても検討する必要がある。 次に、傷害エチレン生成に及ぼす遺伝的要因の影響を明らかにするために、東北林木育種場において選抜、植栽された抵抗性候補木の接ぎ木クローンおよび、被害木の接ぎ木クローンを用いて、傷害エチレン生成量を調べた。その結果、傷害エチレンの生成能は遺伝的に異なっていることが明らかにされ、エチレン生成能を指標とした抵抗性育種の可能性が示唆された。
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