草本植物におけるジャスモン酸の処理効果は、根塊の肥大促進をはじめ多くの生理作用が明らかにされつつある。特に注目すべき点は、植物ホルモンのアブシジン酸と多くの生理作用で共通していることである。これまで、筆者らはアブシジン酸がスギの花芽分化・形成ならびに開花に関連のあることを明らかにしてきた。そこで、ジャスモン酸(JA)もスギ(Cryptomeria japonica)の生殖生理現象と関連のあるものと考え、1)JA処理による生理現象発現の有無、2)内生JAの検索および同定、3)花芽分化・形成ならびに開花時期におけるJAの動態を検討した。スギ花芽形成期におけるJA処理でははっきりとした効果はみとめられなかった。しかし、スギ開花期におけるJA処理では、スギの雄花および雌花の開花時期を早める傾向が認められ、スギの開花現象との関連が示唆された。内生JAの検索および同定では、スギ針葉(雄花形成位置、雌花形成位置)、雄花、雌花の各組織より、抽出を行い液液分配後、高速液体クロマトグラフ(ODS-HPLC)により精製後、ジャスモン酸測定ELISAシステムによりイムノアッセイを行いJAおよびジャスモン酸メチル(JA-Me)の存在を確認した。その後、ガスクロマトクラフー質量分析計(GC/MS)および液体クロマトグラフ-質量分析計(LC/MS/MS)を用い、分析に用いたすべてのスギの器官からJAおよびJA-Meを同定した。さらに、スギの花芽分化・形成および開花におけるジャスモンサンの動態では、花芽形成期ではJAおよびJA-Meの変動はみられなかった。しかし、雄花および雌花の開花直前にJA-Meの増加が確認された。これらのことから、ジャスモン酸はスギの開花現象に影響をおよぼしているものと考えられる。
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