研究概要 |
本研究の目的は森林の蒸散過程に果たす樹体内水貯留の役割を解明することにある。 蒸散過程の観測をタイ北部の丘陵性熱帯季節林および温帯である日本の人工針葉樹林において観測を行った。一般の熱収支観測はほぼ順調に記録されている。この観測では新たに土壌水分センサー(TDR法)のプロファイル観測をしており、その特徴につき記す。 1,TDR法の検証:飽和状態と水分状態ゼロである空気中の測定より、TDRの感部誤差は7%内にあり、飽和状態と水分ゼロ状態で同様の誤差傾向を示すため補正が可能であることが判明した。 円筒を用いた秤量法とTDR法の体積含水率の測定では、高水分状態ではそれぞれの測定値がよく一致するが、低水分状態では測定体積が増加し、円筒外の空気も測定範囲となる。しかし、野外では土中に埋設するので、TDR法の出力は機械誤差以外の補正は必要ないことが判明した。 2,一降雨量と土壌水分増加量の関係:30mm以下の降雨の場合は降水量と土壌水分増加量がほぼ等しいが、それ以上の降雨では土壌水分増加量が大きくなる。これは土中の水の集中によると考える。 3,吸水量の算定および経時変化:表層の1m以下の根系は極めて少ないとして、表層1mの土壌水分減少量から下方浸透量を差し引いて吸水量を測定した。吸水量は降雨後数日間は2,の影響で算定に不正確さがあるが、それ以外では吸水量は夏から秋にかけて蒸散量が減少する過程を正確に表していた。 4,純放射量に対する蒸散量:純放射量に対する蒸散量(=吸水量)は、夏は0.2〜0.9の間であるが、10〜11月にかけては0.2±0.1程度であり、放射エネルギーは夏では潜熱に、秋には大気を加熱する顕熱に使われる量が増大することが分かる。このことは樹冠上熱収支の結果と一致し、大気から土壌根系までの水・熱収支が連続することを意味し、吸水過程の正確な測定ができたこと考える。
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