リグニンを含むパルプをリグノセルロースと見なし、ヒドロキシプロピル化により、水及び有機溶媒に可溶な両親媒性誘導体を調製した。本年度は、両親媒性誘導体と生体高分子との相互作用による生体高分子の構造変化について検討した。さらに、相互作用を解明する基礎研究として、この誘導体の水溶液中の構造及び温度変化による形態変化についても検討を加え、この誘導体の基本的物性と利用法について考察した。 牛血清アルブミン(BSA)を生体高分子として用い、誘導体との相互作用による形態変化を円二色性スペクトルにより調べた。BSAはリン酸緩衝液中で48時間2次構造変化は起こさなかったが、96時間以降α-helix構造に由来するコットン効果が減少して変性することが示された。一方、誘導体が存在してもBSAのスペクトルは変化せず、122時間後でも構造が保たれていることが分かった。このことは、誘導体が生体高分子を取り込むような相互作用をしていることを示唆しているが、その作用は生体高分子の構造を変化させるほど強くなく、単に運動性を抑制して変性を妨げていることを意味していると思われる。 物質の取り込み現象を明らかにするために、先ず、誘導体の溶液構造を検討した。X線小角散乱から、この誘導体分子はかなり剛直な棒状高分子であることが示された。光散乱より、誘導体の会合物は球状の構造をしており、これらの結果、残存リグニンが棒状高分子を結びつけ巨大な球状構造を形成していることが明らかになった。また、誘導体は残存リグニン量が多くなると下限共溶臨界温度が低下して、体温付近で沈殿現象を生じることが示され、球状構造の空隙に取り込んだ物質を温度上昇で放出する温度感応性物質として利用できることが分かった。
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