研究概要 |
水ストレスに起因する樹木のキャビテーションの進行・回復過程を検討するために,二つの実験を行った.第一に,屋外(苗畑)に生育するヤチダモの苗木(3〜4年生)について,晴天の日の夜間(0時)と日中(12時)に水ポテンシャルの測定と最外年輪のcryo-SEM観察を行った.水ポテンシャルが約-0.06MPaであった夜間,-0.7MPa程度まで低下していた日中ともに,大多数の孔圏道管には水が充満していた.この実験の結果から,ヤチダモの場合,水ストレスに起因するキャビテーションは日常的に繰り返されるわけではないこと,-0.7MPa程度の水ポテンシャルの低下はキャビテーションを引き起こすには到らないことが示唆された.第二に,鉢植えにしたヤチダモの苗木を温室に移し,潅水を止めた状態で数日間にわたり定期的に水ポテンシャルの測定と最外年輪のcryo-SEM観察を行った.水ポテンシャルが同程度に低下した試料間でもキャビテーションを起こした孔圏道管の出現頻度が著しく異なるうえに,コントロール(充分に潅水した供試木)でも孔圏道管のキャビテーションがみられるなど,試料間のバラツキが大きかった.そのため,水ポテンシャルがどの程度まで低下するとキャビテーショシが起こるのかを定量的に推定することは困難であった.また,水ストレスに起因するキャビテーションの初期段階の過程について,孔圏道管の特定の部位(例えば,道管相互壁孔)から始まるなどの一定の傾向があるのか否かを示唆する結果を得ることもできなかった.このように一定の明瞭な結果が得られなかった原因の一つとして,供試本の個体差が考えられる.同時に,水ポテンシャルが低下している最中の通導組織の水は容易に気化を起こしやすい状態であるため,試料採取が人為的にキャビテーショシを引き起こしている可能性も否定できない.今後の課題として,まずは試料採取法をはじめとして実験の精度を高める必要がある.
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