前年度の結果を踏まえ、研究方法の信頼性について点検した。ミズナラの小径木を材料として、蒸散が活発な時間帯に、酸性フクシン水溶液を使った立木染色実験を行った。それと同時に、立木凍結法により樹幹外層の木片を採取し、凍結試料のcryo-SEM観察を行った。主な結果は次のとおりである。(1)孔圏では、染料の流動の痕跡は認められたが、水が充満している大道管はほとんど観察されなかった。(2)これら大道管の内こうにみられる気泡や水滴の形状については、不定形のものが多く、球面をもつものはわずかであった。(3)晩材の小道管および年輪全域の周囲仮道管の多くには、染料の沈着が認められたのに加えて、水が充満しているのが確認された。これらの結果から、cryo-SEMで観察された通水組織の水の状態が生立時のそれを微細構造レベルで忠実に捉えていることとは考え難い。また、大道管でみられたキャビテーションは、立木凍結処理により人為的にキャビテーションが誘発された可能性が高い。というのは、大道管は水の詰まった周囲仮道管に取り囲まれていたことから、自発的気化によりキャビテーションが起こったことになる。しかし、天然下では通水組織の水中で水ポテンシャルの低下による自発的気化は起り難いと考えられている。液体窒素を使った立木凍結法は、凍結に起因するキャビテーションの可視化には有効である。しかし、この方法を水ストレスに起因するキャビテーションの研究にそのまま適用することは危険であり、とりわけ試料採取法を抜本的に再検討すべきことが示された。
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