成長ホルモン遺伝子を用いたトランスジェニックサーモンを作製すると、現象として、その成長速度は約40倍にも達することをこの研究を提案した時に報告した。しかし、この巨大化した魚のエラや頭部の形態形成には異常が見られた。 そこで、なぜこのように大きくなるのか?そして、なぜこのような形態形成異常が起きるのか?に関して、導入した成長ホルモン遺伝子を中心にその遺伝子の発現と細胞内のシグナル伝達がどのようになっているのかをカナダより送られてくるサンプルを用いて調べることを目的とした。 その結果、 (1) 導入した成長ホルモンは魚の全ての組織において発現していることを発見した。特に幽門垂やひ臓、腸などで高い発現が見られた。 (2) しかし、導入された成長ホルモン遺伝子は成長の初期においてのみ大量に発現し(ノーザンハイブリで検出できるレベル)、その後発現した導入成長ホルモン遺伝子は急激に減少しRT-PCRのみで検出できるレベルに落ち込むことを発見した。 (3) 脳下垂体を取り出しGH遺伝子の発現量を調べた結果、遺伝子導入群の魚は同じサイズの魚と比較して、その発現量は約1/3位に減少していた。 (4) また、ホールマウントインサイチュウハイブリダイゼーションの結果、実験群、コントロール群共に脳下垂体の同じ部域を染色したものの、その発現量は遺伝子導入群で視覚的に見ても低いことが判った。 (5) 頭骨の成長に関与していることが予想されている、sonic hedgehogやHoxD4遺伝子の発現を調べたが、既に大きくなってしまった魚においては明瞭な差を得ることができなかった。ただし、この実験においては骨の細胞よりRNAを抽出するなどの技術的な問題あるために良好な結果を得ることが出来なかった可能性も考えられ全ため、今後、発生の初期の魚を用いて再度挑戦するつもりである。
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