研究概要 |
サクラマス(Oncorhynchus masou)には0歳の秋に性成熟する早熟雄が出現する.早熟雄の排精時期は日長により制御されており,6月からの短日処理(8L16D;8時間明期16時間暗期)では8月に,長日処理(16L8D)では10月に排精する.すると,日長情報がどのような経路で伝わるのかが問題となる.サクラマスにおいて,松果体ホルモンであるメラトニンの分泌は夜間に昂進し昼間は低下する明瞭なパターンを示す.この分泌パターンにより日長情報が伝達されることが考えられる.今年度は,日長情報がメラトニンを介して伝達される可能性について検証した.まず,長日条件下(16L8D;light on 04:00-20:00)で飼育したサクラマス早熟雄にメラトニンを経口投与することによって,その血中パターンを短日型に変えることができることを確認した.すなわち,11時にメラトニン含有餌を体重の1%(5μg/10g-fish)投与すると,血中メラトニン濃度は短日型のパターンを示すことが判明した.そこで,6月中旬に0歳魚早熟雄を選別し,長日条件下でメラトニン含有餌を毎日11時に経口投与して10月まで飼育し,性成熟の進行について対照群と比較した.生殖腺体重比(GSI)は実験期間を通じてメラトニン投与群で先行して増加する傾向があった.両群とも10月に排精した.また,血中テストステロン濃度を時間分解蛍光免疫測定法で測定したところ,8月にはメラトニン投与群で有意に高い値となった.以上より,長日条件下でメラトニンを経口投与して短日条件下でのメラトニン分泌パターンを模すことによって,性成熟の進行が亢進することが示唆された.しかし,短日条件下で飼育した場合に比べて,性成熟の進行は顕著ではなかったことから,日長情報の伝達に関与しているのはメラトニンだけではないことも示唆された.
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