研究概要 |
前年度に開発した水耕装置において溶存O_2濃度制御下で生育させたキュウリ植物の根を材料とし,まず,O_2欠乏条件下において皮膚に生成されるリグニンの型(p-OH-phenyl型、guaiacyl型およびsyringyl型)をフロログルシノル塩酸反応およびモイレ反応に基づいた組織化学的方法により調べた。その結果,木部リグニンおよびO_2欠乏条件で生成した皮層リグニンともグアイアシル核をもつモノリグノールによって構成されていることが示唆された。さらにキュウリ根リグニンの定性分析について検討したが,キュウリ根に含まれるリグニン量が木本植物の組織に比べて著しく少ないことから既存の分析法がキュウリ根には応用し難いことがわかった。また,キュウリ根切片の切断面に陰圧を与えた場合に生じる吸水速度を計測するシステムを確立してO_2欠乏条件下でリグニンが生成・蓄積された根の吸水特性を調べた。その結果,通常の根切片と比べてO_2欠乏条件でリグニンを生成・蓄積した根切片では陰圧による吸水が抑えられたことを示すデータが得られ、O_2欠乏条件下の根におけるリグニンの生成が吸水抑制の一因であることが示唆された。しかし,キュウリ根に陰圧を与えた場合に通常吸水している状態の根とは異なる経路で水が輸送されることが推察され 根の吸水特性を正確に把握することは困難であった。 以上の研究で得られた結果から次の結論が得られた。すなわち,(1)水耕で生育しているキュウリ根においてO_2欠乏条件とした場合に,通常木化しないとされる皮層柔細胞でリグニンが生成されてその細胞壁に蓄積された。(2)皮層リグニンおよび木部リグニンともグアイアシルリグニンであることが示唆され、O_2欠乏条件によって誘導されるリグニン生成経路について木部リグニンとの差異を明らかにすることはできなかった。(3)この蓄積したリグニンにより根の吸水機能が低下して根の吸水が抑えられることが示唆されたがその確証は得られなかった。
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