種々のストレスによる生殖機能の抑制は、家畜の生産性低下や稀少野生動物種の絶滅を招く恐れがあり、その作用機序の解明が必須である。本研究は、ニホンザルをモデル動物として用い、低栄養ストレスによるパルス状LH分泌抑制の機序を解明するために以下の実験を行った。 1. 急性低栄養ストレスとして血糖利用性阻害剤(2DG)の静脈投与を行い、パルス状LH分泌に及ぼす影響を検討した。卵巣除去ニホンザルでは2DG(300mg/kg)投与の後、約2時間に渡りLHパルスが抑制された。卵巣除去-E2代償投与動物においても2DG投与によりLHパルスが抑制された。この結果は、2DG投与により引き起こされるLH分泌の抑制がE2に依存しないことを示唆している。また、2DG投与により嘔吐反射が起きたことから、化学受容器が存在するとされる延随最後野が2DGの作用部位であることが考えられる。 2. 低栄養条件下におけるLHパルス抑制の脳内機序を、視床下部における多ニューロン発射活動(MUA)を指標として調べるため、ニホンザルにおけるMUA記録法の確立を行った。その結果、約50分おきにMUAの一過性の上昇(MUAボレー)が観察され、各MUAボレーはLHパルスのピークに先行していた。ごれは、本実験により記録された電気活動が、LHRH pulse generatorの活動を反映するものであることを示している。 3. 血糖利用性の変化を感受するセンサシサ7の局在を調べるため、脳および各種末梢臓器におけるグルコース担体(GLUTs)の分布を免疫組織化学的に検討した。現在、ニホンザルを灌流固定して各臓器を採取し、GLUTsの免疫組織化学的検出の検討を進めている。また、グルコキナーゼとの二重染色により、血糖利用性の感受システムの解明およびセンサーとLHRH pulse generatorとの相互連絡について検討する予定である。
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