B細胞抗原受容体(sIgM)にはSyk、Lyn、Btk、またT細胞抗原受容体にはZAP70、Lck、Fyn、Itkといったチロシンキナーゼ(PTK)が会合しており、受容体架橋後、それらのチロシンキナーゼが速やかに活性化され、その基質となる分子がリン酸化される。さらにその下流では、PLCγやPKC、またMAPキナーゼを活性化する伝達経路分子がセカンドメッセンジャーとしての役割を担っていると考えられている。我々は、PTKがその基質となる蛋白を活性化する段階を制御している分子が存在しており、それらが抗原受容体刺激による細胞の運命決定に関与しているのではないかと考えた。 我々は、B細胞抗原受容体下流でPTKとその基質分子のリンカーとして役割を担っている可能性のある新規B細胞特異的分子(BASH:Bcell adaptor containing SH2 domain)を発見した(J.Immunol.161(1998))。現在までのところ、BASHがWEHI細胞のBCR刺激によるアポトーシス誘導に抑制的に働き、その作用にはSH2ドメインが必須であることを示唆する結果を得た。また、血球系細胞特異的な発現が認められるSH3ドメイン保有リンカー分子であるHS1は、BCRまたはTCR刺激後速やかにPTKによりリン酸化され、またリン酸化されたHS1が一過性に核内に増加することが以前の我々の実験から明らかであった。今回我々は、HS1の細胞内局在を決定する機構を調べたところ、HS1は通常でも核細胞質問をシャトルしている分子であり、細胞質内リテンションにそのSH3ドメインが必要であることが明らかとなった。また、プロモーターアッセイから、HS1にはSH3ドメイン依存的にMAPKカスケードを抑制する働きがある可能性が示唆された(投稿準備中)。今後、PTKの直下でリンカー分子として位置しているこれら分子の機能をさらに追求し、リンパ球運命決定機構を解明したいと考えている。
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