ボルナ病ウイルス(BDV)は、近年の疫学的調査によりヒトを含む多くの動物種に自然感染することが明らかにされている。自然感染する宿主の一つであるネコでは、BDV感染はstaggering diseaseと呼ばれる神経疾患の一因となることが強く示唆されているが、発症前の病態の情報は十分ではない。今年度は、動物病院に来院した神経症状を呈していないネコにおけるBDV感染調査を行い、BDV不顕性感染ネコにおける感染の評価ならびに病態について検討した。また、ウイルス分離が困難であるため、PCR法による遺伝子検出方法の検討を行った。その結果、以下の知見が得られた。 1. 調査した東京都と神奈川県のイエネコ127検体中、49%のネコが末梢血からBDV遺伝子あるいは抗BDV抗体が検出された。このことから、これまで考えられていた以上にBDV感染歴のある(不顕性感染している)ネコが存在することが示唆された。 2. BDV遺伝子と抗体の両方が検出される検体は希であった。 3. BDV-p24抗体と-p40抗体について調べたが、各抗体における陽性検体はほぼ同数存在したが、両抗体が検出された検体は約6割であったことから、血清学的診断には少なくとも抗BDV-p24及び-p40抗体の両方を調べる重要性が示唆された。 4. 遺伝子が検出された検体は主に1歳未満の若齢ネコだった。また、10歳以上のネコでは抗体保有率が他の年齢層に比べ高かった。性別による陽性率の相違は認められなかった。季節による感染率の差異は認められなかったが、遺伝子が検出された検体は冬期に限局していた。何らかの疾病が原因で来院したネコでBDV感染が検出されやすい傾向が認められた。BDV感染率には地域差が認められた。5. 操作上のコンタミネーションを避ける目的でsingle-tube RT-PCR法を、また混入したプラスミドDNAを増幅しないmRNA selective PCR法を開発した。
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