ボルナ病ウイルス(BDV)が自然感染する動物であるネコではBDV感染は神経疾患の一因になることが強く示唆されているが、発症前の不顕性感染時の病態の情報は十分ではない。今年度は、神経症状を呈するネコも含めてBDV感染調査を行い感染病態について検討した。また、BDV自然感染ネコに対してストレスを与え、実験的な体内潜伏ウイルスの活性化を試みた。 1.東京都と神奈川県の動物病院に来院したイエネコ175検体中59検体(33.3%)において末梢血から抗BDV抗体あるいはBDV遺伝子が検出された。そのうち、抗体陽性と診断されたのは46検体(26.3%)、遺伝子陽性は14検体(8.0%)、ウイル遺伝子と抗体の両方が検出された検体はきわめて稀(175検体中1検体)であった。抗ウイルス抗体の内訳は、抗p24抗体陽性検体は約85%、抗p40抗体陽性検体は45%、両抗体が検出された検体は30%であったことから、不顕性感染しているネコにおいては抗p24抗体の方が抗p40抗体よりも保有率が高いことが示された。性別、季節、疾病の有無による全体的なBDV陽性率の相違は認められなかった。しかし、BDV遺伝子は秋から冬(11月〜2月)に集中して検出された。また、年齢別に見ると、1歳未満の若齢ネコにおいてすでに約30%の陽性率を示し、それが各年齢群(1〜4歳、4〜8歳および9歳以上)において維持されていたことから、感染経路として母子感染あるいは若齢期における水平感染が主である可能性が示唆された。 2.神経症状を呈する27検体中10検体(37.0%)がBDV陽性と診断され、神経症状を呈していない検体群との相違は認められなかった。また、同一検体を2ヶ月間調査したところ、抗体あるいはウイルス遺伝子が断続的に検出された。 3.BDV自然感染ネコに対し低温ストレスを与えたところ、ストレス後2週間目から血液中にBDV遺伝子が検出される検体が存在した。しかし、同期間に神経症状あるいは行動異常は示さなかった。
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