植物は、受精卵からだけでなく分化した細胞からも脱分化を経て完全な個体を形成するが、その遺伝的制御機構は分子レベルではほとんど明らかにされていない。本研究の目的は、球状胚で強く発現し器官分化が見られる直前から発現が見られなくなったイネのHOS13遺伝子の胚発生における機能と発現制御を明らかにすることである。 まずHOS13-のゲノムクローンを単離しプロモーター領域の塩基配列を決定した。その結果、特徴的な配列として酵母のホメオドメインタンパク質MATa1/α2の結合配列が見られた。そこでHOS13プロモーター-GUSキメラ遺伝子、およびMATa1/α2結合配列を欠失したキメラ遺伝子を作成し、イネに導入した。現在形質転換イネを育成中である。またカリフラワーモザイクウィルス35Sプロモーターを用いてHOS13をセンス方向およびアンチセンス方向に発現するコンストラクトを導入したが、いずれも今のところ異常は見られていない。 一方、シュートメリステムの形成・維持で機能していると考えられているイネホメオボックス遺伝子OSH1を過剰発現させたところ、正常な再分化が阻害され、未分化なまま増殖を続けた。この形質転換カルスでは他のイネホメオボックス遺伝子HOS3、HOS16の発現が見られたがHOS13の発現は見られなかった。胚発生過程ではOSH1、HOS3、HOS16はシュートメリステムで発現が見られるのに対し、HOS13はシュートメリステムが分化する前の球状胚で発現が見られる。これらのことはHOS13は構造はよく似ているものの他のホメオボックス遺伝子とは大きく異なる発現制御を受けていることを示している。 また、HOS13はOSH1の極めて近傍(約20kb)に座乗することが分かった。
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