我々が独自に作製したrae28遺伝子欠損マウスはファロー四徴症や両大欠陥右室起始症といった心臓流出路を中心とした心臓の形態形成異常や系統的な神経堤細胞の発生異常を示し、周産期致死に至る。ファロー四徴症や両大欠陥右室起始症は、ヒトの代表的なチアノーゼ型先天性心疾患であり、その発症機構の解明が待たれている。本研究では、このマウスを組織解剖学的、分子生物学的手法を用いて解析することによりこれらの疾患の原因解明を目指した。本研究により以下の結果を得た。1.rae28遺伝子欠損マウスで観察された心臓の形態形成異常は、胎令9.5日、10.5日の個体における心臓のルーピング異常を主な原因とする。2.心臓発生におけるルーピング異常は、領域特異的に発現する心房性利尿因子(ANF)、ミオシン軽鎖2v(MLC2v)、ベーシック・ヘリックス・ループ・ヘリックス型転写制御因子の一つであるHand1の発現異常から生じる。3.これらの領域特異的遺伝子発現の異常は、上流遺伝子である心臓特異的ホメオボックス遺伝子Nkx2.5の発現が正常に維持されなかったために生ずる。以上の結果からrae28を含むポリコーム遺伝子群による遺伝子発現維持機構がNkx2.5遺伝子の発現維持を介して心臓発生に重要な役割を果たしていることが明らかになった。
|