肝の再生機転における星細胞を中心とした肝間質細胞での神経細胞接着分子(N-CAM)発現を明らかにする目的で、ラット70%部分肝切除モデルを用いて、N-CAMの発現を経時的に検討した。Wistar系雄性ラットにsham operationと70%部分肝切除術を施行した。sham operation群は手術の翌日に屠殺。部分肝切除群は、1、2、3、4、5、7、14日後に屠殺した。標本は、4%paraformaldehyde溶液で灌流固定し、抗N-CAM抗体に加えて、活性化星細胞および筋線維芽細胞のマーカーである抗平滑筋αアクチン(α-SMA)抗体、神経線維のマーカーである抗synaptophysin抗体を一次抗体として、免疫組織染色を行った。sham operation群、部分肝切除群とも肝星細胞にはN-CAMおよびα-SMAの発現は認められなかった。門脈領域では、sham operation群で散在性に認められていた発現が、肝切除術2日後より増強し始め3日から5日後にかけて最大となった。電顕観察により同細胞は線維芽細胞と同定された。α-SMAも肝切除術後、門脈領域内線維芽細胞に発現が認められるようになり、N-CAMと同様の分布および経時変化をたどった。synaptophysin陽性末梢神経線維には変化がなかった。今回の検討では、肝障害時とは異なり、部分肝切除術に伴う肝再生においては星細胞にN-CAMとα-SMAの発現は認められなかった。このことより、ラットでは肝再生時おいて星細胞は筋線維芽細胞様に形質転換するまでには至らないと考えられる。一方、部分肝切除術後に増加する門脈領域N-CAM陽性線維芽細胞は、α-SMAも同時に発現することより、筋線維芽細胞様に形質転換していることが考えられ、N-CAMは肝切除術後の門脈領域における細胞外基質の活発な代謝に関与することが示唆された。
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