本研究では実際に筋肉中で行なわれている分子機構について知るために、ショウジョウバエの各種の筋原線維束を調整して化学反応と力学反応の同時測定を行う予定であったが、昆虫飛翔筋の筋原繊維ではATPアナログ(Cy3-EDA-ATP)の投与後Caged-ATPから大過剰のATPを遊離させても完全な蛍光の減衰過程が得られず、ATPアナログが非特異的に結合しやすい物質が含まれている可能性や、構造がよりタイトで拡散が遅い可能性が考えられたため断念した。昨年度から行っていた骨格筋の速筋と遅筋の違いについては細部を検討し論文として報告した。ラット心室でも飼料作成を試みたが骨格筋で得られたような単一の細いサンプルが調整できなかった。このためCy3-EDA-ATPの置換速度は遅くヌクレオチドの拡散が律則になってしまっているように思われた。心筋に関してはさらに細い筋原線維束の調整に努力している。 各種ミオシンを発現系により大量調整してin vitro motility assayを行う計画については昨年度は細胞性粘菌に種々のキメラミオシンを発現させたが種の異なる遺伝子の発現は困難であったため、今年度は昆虫の培養細胞系を用いてS2領域の長さを変えたコンストラクトについて発現を試みているがまだ成功していない。同時にキネティクスにかなりの違いが推測されている小腸上皮ミオシンIを精製して光ピンセットで力発生と化学反応を同時に測定する系の構築を行った。
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