研究課題の一つである脱共役タンパク質UCPの各サブタイプの解析は、当面当教室の他の研究者に委ねる事となった為、今年度の研究のポイントを11年度に予定していた熱産生刺激因子の解析の関連研究に変更した。 熱産生組織である褐色脂肪組織(BAT)の機能亢進時に膜リン脂質脂肪酸の不飽和度が増大する事、また逆に多不飽和脂肪酸長期経口投与により本組織が活性化する事が知られている。 そこで、褐色脂肪組織熱産生におけるリン脂質多不飽和膜脂肪酸、特にドコサヘキサエン酸DHAの役割を検討するため、DHA欠乏食を長期摂食した際の非ふるえ熱産生能の変化を調べた。その結果、両群の体重や安静時代謝に差はない一方、BAT並びに血漿中のリン脂質のDHAの割合が減少した。NA刺激時にinvivo酸素消費量は増加するが、その増加率はDHA欠乏群で有意に低かった。BAT湿重量とDNA量及び基礎時とNA投与時のinvitro酸素消費量には両群で差がなかった。食餌性DHA欠乏によりBATや血漿のリン脂質のDHAレベルが減少し、invivo非ふるえ熱産生能の低下を引き起こしたことより、DHAの摂取が非ふるえ熱産生能の維持やその促進的調節に関与することが示唆される。 さらに、ラット絶食時のBAT熱産生能低下と膜リン脂質脂肪酸組成の関係を調べた。72時間絶食により、BAT重量・DNA量、熱産生の指標であるinvitro組織酸素消費量は低下し、再摂食で回復した。この熱産生能と呼応して増減した主要な不飽和脂肪酸は、パルミトオレイン酸とDHAであった。不飽和脂肪酸がBAT熱産生能の維持に関与すること、特に他でも報告のあるDHAが熱産生能の促進的調節に関わる可能性が示唆された。このBAT膜リン脂質中のDHAレベルがどの部位で、またどのような機序で本組織の熱産生能に影響を与えるのがについては今後の検討課題である。
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