1、目的 生体が全身性感染症や炎症性疾患に罹患したときに生じる痛覚の変化に、視床下部およびそこで生成されるプロスタグランジンがいかに関与しているかを検討する。 2、方法 ラットを用いて、リポポリサッカライド(LPS)を静脈内投与して全身性感染症のモデルとし、以下のような検討を行った。 (実験1) LPSを様々な量で投与し、侵害受容閾値や体温の変化を生じる量を特定する。 (実験2) 実験1で生じた変化に、視床下部視索前野(POA)でのプロスタグランジンが関与しているか否かを検討する。LPS静脈内投与前に、POAにシクロオキシゲナーゼ(COX)阻害薬を投与して侵害受容閾値の変化を調べる。この際、生理的状況下で存在するCOX-1の関与と共に、サイトカインをはじめとする種々の刺激によって生成されるCOX-2の関与についても調べる。 3、結果 LPS10μg/kg静脈内投与にて90分後、また100μg/kg投与では45-60分後に侵害受容閾値の低下が観察された。体温は1、10μg/kg投与にて120分後から、100μg/kgでは330分後から有意な上昇が観察された(実験1)。また、LPSによって生じた侵害受容閾値の低下は、POAにCOX1と2の阻害薬であるジクロフェナクや、COX2の選択的阻害薬であるNS-398を前投与することによって抑制することができた。 4、結語 LPSの全身性投与によって生じる侵害受容閾値の低下には、POAでのプロスタノイドの生成が関与していると考えらる。5、今後の展開 今後はLPSによって生じる侵害受容閾値の変化に対する一酸化窒素の関与のほか、末梢の感染の情報を中枢に伝達する経路の解明や、LPSによる体温上昇へのPOAの関与についても研究を展開していく予定である。
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