侵害刺激を動物に加えると下垂体後葉からのオキシトシン分泌が促進する。この反応は、延髄腹外側部のA1ノルアドレナリン神経が伝達することを明らかにしてきた。平成10年度は、視索上核におけるノルアドレナリン放出がNMDA受容体の活性化により抑制されていることを、NMDA受容体のアンタゴニストと脳内微量透析法を用いた実験により明らかにした。本年度は、このNMDA受容体による抑制的制御が、生理的刺激によるノルアドレナリン放出においても働いているかを検討した。ラットをウレタン麻酔し、経咽頭的に視索上核を露出し、直視下に視索上核内に脳内微小灌流用プローブを刺入した。人工脳脊髄液を灌流し、灌流液を10分或いは5分間隔に採取し、灌流液中のノルアドレナリン濃度を電気化学検出器付のHPLCで定量した。侵害刺激による視索上核内でのノルアドレナリン放出が、NMDA受容体により、抑制されているか検討した。侵害刺激として、ラットの足掌部皮膚表面を電気刺激した。この侵害刺激を2時間間隔で、2回繰り返した。2回目の侵害刺激を加える30分前から、プローブを通じ、視索上核内にNMDA受容体のアンタゴニストであるMK801あるいはその偽薬を投与した。侵害刺激は、再現性よく、視索上核におけるノルアドレナリン放出を増加させた。MK801を投与すると、視索上核のノルアドレナリン放出の基礎値が増加した。侵害刺激に対する視索上核内でのノルアドレナリン放出はMK801を局所投与した群においては偽薬投与群に比較し、より大きく増加した。以上のデータから、生理的にも、NMDA受容体は、ノルアドレナリン放出を抑制していることを示唆された。
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