研究概要 |
12-リポキシゲナーゼ(LO)の代謝産物である12-ヒドロキシエイコサテトラエン酸(HETE)は、摘出血管においてアンジオテンシンIIによる収縮反応を増加するが、ノルエピネフリンの収縮反応には影響せず、また内皮を除去してもアンジオデンシンIIの収縮反応に対する増強作用に変化がないことを報告した(Eur.J.Pharmacol.,358:161-164:1998)。内皮の有無に関係なくアンジオテンシンIIの血管収縮反応を特異的に増強させたことより、12-HETEのアンジオテンシンII収縮反応に対する増強作用は、内皮由来の血管収縮作用を持つプロスタグランジンなどの遊離を介したものではなく、アンジオテンシンIIの収縮反応に対する直接増強作用が考えられる。現在までのところ、アンジオテンシンII受容体のシグナル伝達に12-HETEが介在している事実はないが、本研究はその可能性を示唆するものであり、極めて重要な研究である。実際、高血圧動物モデルにLO阻害物質を投与すると降圧効果が認められることは多く報告されていたが、その作用機序は不明であった。本研究は、LO阻害物質の降圧作用における作用機序の一つを初めて明確にしたものである。一方、その裏付け研究として、生薬成分の一つでジンチョウゲから抽出したダフノドリンAは、非特異的ではあるがLO阻害活性を有することから、このダフノドリンAを用いて、アンジオテンシンIIの血管収縮反応に対する効果を検討したところ、濃度依存的に収縮反応を抑制することが確認された(Prostaglandins Leukot.Esscnt.Fally Acids,in press)。また、同じく生薬成分から抽出したパナキシノールは、シクロオキシゲナーゼを阻害せず、12-LO活性を特異的に抑制することが報告されているので、このバナキシノールを用いて同様の実験を行い、特異的にアンジオテンシンIIの血管収縮反応を抑制することも確認している(現在投稿中)。摘出血管におけるこれら阻害薬のアンジオテンシンIIの収縮反応に対する抑制効果は、12-LO阻害薬が、新規機序を有する抗高血圧薬として有用である可能性を示唆するものである。
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