Raf-1 は癌遺伝子産物Rasのエフェクターである。RasがRaf-1を活性化する際、2種類の結合が必要である。第一の結合はRasのエフェクター領域と、Raf-1のRas-Binding Domain(RBD)との結合であり、第二の結合はRasのアクチベーター領域と、Raf-1のCysteine-Rich Domain(CDR)を介するものである。RaplAは、エフェクター領域がRasと同一で、RBDと結合できるが、Raf-1を活性化せず、むしろRasによる活性化を阻害する。しかしB-Rafは活性化することができる。我々はRaplAがCRDと非常に強く結合し、このためRaf-1の活性を抑制することを見い出した。RaplAとB-RafのCRDとの結合は、Raf-1のCRDより明らかに低下していた。本研究では、RaplAおよびRas、RafのCRDとの結合親和力の程度によりRsfの活性化と活性化阻害が調節されているとの仮説を立て、これを証明するため、Raf-1とB-Rafの各ドメインを交換した種々のキメラ変異体、特にCRDを入れ替えたキメラ変異体を作成し、RaplAおよびRasによる活性を測定した。その結果、B-RafのCRDを持ったRaf-1はRaplAにより活性化され、逆にRaf-1のCRDをもったB-RafはRaplAにより活性化されなくなった。さらにRaf-1およびB-RafのCRDにランダムに変異を導入したプールを作成し、その中からRasに対する結合は野性型と同様であるが、RaplAに対する結合が増強しているB-RafのCRDの変異体、K252E/M278Tを見い出した。この変異体のRasおよびRaplAによる活性を測定したところ、Rasによる活性は有するが、RaplAによる活性は消失していた。以上の結果は我々の仮説を強く支持するものであった。
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