本年度は前年度において精製、構造決定に成功した新しいアミノ酸配列を持つ生理活性ペプチドに対して主として遺伝子工学的な解析を行った。PCR法を用いてプローブを得た後、ブタ脳より作成したcDNAライブラリーに対してスクリーニングを行い、完全長のクローンを得た。シークエンス及びアミノ酸配列への翻訳の結果、このペプチドは前駆体を含めてカルシトニン関連ペプチド(CGRP)と60%程度の相同性を持っていることが判明した。次に遺伝子の構造を解析した結果、このペプチドはカルシトニン/CGRP遺伝子のカルシトニンをコードするエクソンを欠いたような構造であった。このペプチドの組織発現量を測定するためにノーザン解析を行ったところ、中枢においては視床下部、中脳など、末梢では主として甲状腺にバンドが検出された。またこのペプチドの特異的抗体を作成して組織含量を測定した結果、甲状腺等にも免疫活性が見られたが、脳下垂体に大量に非常に高い免疫活性が観察された。従って本ペプチドは中枢神経においては視床下部で合成され、細胞内輸送により脳下垂体に運ばれた上でそこから分泌されるという神経ペプチドにしばしば見られる分泌様式をとっていると考えられる。次にカルシトニン及びCGRP受容体を遺伝子工学的に発現させて合成ペプチドによる細胞内cAMP産生の測定を行ったところ、その構造上の類似性から考えられる結果とは異なり、CGRPではなくカルシトニン受容体に強く作用することが明らかになった。当初このペプチドは腎上皮細胞の細胞内cAMP濃度を上昇させる作用を持つことから水の再吸収に関係していると予想されたが、以上の結果からカルシウム代謝に関係する生理作用を有することが示唆される。
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