免疫抑制剤ラパマイシンのターゲットとして発見された蛋白リン酸化酵素mTORは、p70S6キナーゼ(p70)やeIF-4E BP1(4EBP1)といった蛋白合成・細胞増殖の制御に関わる分子のリン酸化及び活性化に必須の細胞内情報伝達分子である。このmTORは、哺乳細胞が細胞環境に存在するアミノ酸バランスを感知し、細胞周期移行を制御する過程に深く関与していると考えられている。 本研究において以下のような成果を得た。 1)mTORによるp70活性化機構に関する成果:in vitroにおいて、mTORはp70を直接リン酸化し、さらにp70の酵素活性を活性化する。その主なリン酸化部位は412番のスレオニン残基であり、このリン酸化部位はp70の活性化に必須のリン酸化部位である。また、mTORでリン酸化された後に、インスリン等の細胞増殖因子で活性化される3-phospoinsitide dependent protein kinase 1(PDK1)によってリン酸化されると、p70はsynergisticに強く活性化される。 2)mTOR結合蛋白の検索に関する成果:アフィニティーカラム等を用いた蛋白精製と質量分析計を用いた蛋白解析を行い、mTORに結合している可能性のある3種の蛋白、p200、p150、p40を同定し、また、p40はメチル化酵素である可能性が得られた。 上記成果のもたらす意義:成果1)はインスリンなどの細胞増殖因子による細胞内情報伝達経路とmTORによる情報伝達経路は別の経路として存在し、生体内でアミノ酸により惹起されるシグナルが、インスリンなど細胞増殖因子によって惹起されるシグナルに対してプライミングシグナルとして機能しているという考えを強く示唆する結果と考えられる。成果2)で得られた蛋白は、新しいmTORのエフェクター分子あるいは mTORの酵素活性をアミノ酸バランスの変化に対応して制御する分子である可能性があり、今後更に解析を続ける予定である。
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